
インターネットの通信品質がよくないと感じた際の一般的なアプローチとしては、「現状把握」「対策」「通信事業者などへの相談」が挙げられます。事業者側に問い合わせを行った際に「輻輳(ふくそう)」という言葉が出てくることがあります。輻輳とは、インターネットなど特定のネットワークに処理量以上の大量のデータ送受信が行われたり、アクセスが集中したりすることで、通信速度が低下したり、接続が不安定になったりする現象を指します。
たとえば大規模オンラインイベントや人気商品の販売開始直後は、一気にアクセスが増加するため、Webサイトにアクセスしにくい状況が発生することもあるでしょう。企業ではリモートワークの増加やVPNの利用拡大により、業務システムの遅延や通信障害が生じるケースも増えています。
本記事では輻輳の原因や仕組みを解説し、実際の解決策や企業の解決事例を紹介します。通信環境の改善を検討している方は、参考にしていただけると幸いです。
輻輳とは
輻輳とは、特定のネットワークやシステムにおいて、処理量以上のデータの送受信やトラフィックが過剰に集中することで処理が滞る状態を指します。たとえば、動画配信やリモートワーク、災害時のアクセス増加等に加え、昨今ではサイバー攻撃によるサーバーへのアクセス集中なども輻輳の原因として挙げられます。輻輳が発生すると、データの遅延やパケットロス(データが欠損すること)が発生し、通信品質も低下するようになります。
輻輳が発生すると、Webページやクラウドサービスに接続しにくくなり、オンライン会議の音声や映像が途切れるといった問題も発生します。クラウド上の業務システムにアクセスできないとデータのやり取りができないだけでなく、社員の業務遂行にも支障をきたします。
輻輳を解消するには、通信環境の最適化や負荷分散の仕組みを導入することが重要になります。
今すぐ輻輳を解決したい方のための4つの対策
輻輳による通信遅延を今すぐ改善したいとお考えの方向けに、4つの対策を紹介します。
①回線速度を増速するVPNを利用したリモートワークの増加などにより、通信量が継続的に増加している場合は、回線の速度を増速させることが効果的です。たとえば現在1Gbpsの回線を2.5Gbpsや5Gbps、10Gbpsにアップグレードすることで帯域幅が拡張され、アクセスが集中しても速度低下が起こりにくくなります。
特に社内で頻繁に大量のデータをやり取りするような場合や、多くの社員が同時にクラウドサービスを利用する環境では、回線の速度を一度見直してみましょう。回線速度を向上させるには、既存契約のプラン変更や新しい回線事業者への乗り換えなどが効果的です。プラン変更や乗り換えは、機器設置や配線工事が不要な場合があり、比較的シンプルな手続きで実施可能で、早期に効果を実感しやすい対策のひとつです。
②IPoE方式に切り替える
インターネットの速度遅延は、回線事業者のネットワーク機器である「網終端装置」にアクセスが集中することで発生するケースが多くあります。従来のPPPoE方式を利用している場合、網終端装置を経由するため、混雑時に通信速度が低下することもあります。
一方、フレッツで採用されているIPoEという接続方式では網終端装置を経由せずに通信できるため、輻輳の影響を受けにくくなります。IPoE方式への切り替えも、回線工事のみで完了するケースが多く、大掛かりなネットワーク機器の増設や配線工事が不要なため、比較的手軽に導入できる点が魅力です。ただし、インターネットサービスプロバイダ(ISP)によっては、IPoEに対応していないこともあるため、あらかじめ対応の可否を確認しておきましょう。
PPPoE接続とIPoE接続の違いとは?仕組みを理解し速度を改善
③回線を専有型にする
一般的なインターネット回線は複数のユーザーが帯域を共有する「共有型」の回線です。これを「専有型」に切り替えることで他のユーザーの影響を受けにくくなり、通信の安定性が向上します。
共有型の回線を利用している場合、特にオフィスビルなどでは、多くの利用者が同じ回線を使用するため、特定の時間帯に通信が遅くなることもあるでしょう。そこで回線を専有型にすると、利用できる帯域が確保されるため、常に安定した通信環境を維持できるようになります。
ただし専有型回線はコスト高になることもあり、企業の予算や基幹業務かどうかなどの重要度を考慮した上で導入を検討したほうが良いでしょう。専有型回線は安定したネットワーク環境を必要とする業務が多い場合、有効な対策の一つになります。
④抜本的にネットワーク構成を見直す
輻輳がセンター拠点へのアクセス集中によって発生している場合、ネットワーク構成の抜本的な見直しが必要になることもあります。たとえば「ローカルブレイクアウト※」を活用することで、センター拠点へのアクセス集中を抑制したり、ネットワーク構成そのものをクラウド基盤に移行したりすることも選択肢の一つになるでしょう。
たとえば、アルテリア・ネットワークスの「VANILA」であれば、クラウド基盤に接続するだけでさまざまなネットワーク機能が利用できます。これにより、センター拠点へのアクセス集中を大きく減らすことが可能になります。
ローカルブレイクアウト:特定の通信(クラウドサービスなど)についてはセンター拠点などを経由せず、各拠点やリモート環境からインターネットへ直接接続するネットワーク構成のこと。
輻輳の原因や仕組み
本章では輻輳が起きるメカニズムについて解説します。
①インターネットの網終端装置へのアクセス集中インターネットの網終端装置は、複数のユーザーが同時に利用するための中継ポイントであり、この装置にアクセスが集中すると通信が遅くなることもあります。特に多くの企業や個人が利用するピークタイム等に輻輳が発生しやすくなります。
たとえば日中に多くの人がオンライン会議や大容量データの通信、クラウドサービスの利用などを行う場合、通信速度の低下も起こりやすくなるでしょう。
②一時的な利用増による「帯域幅」のひっ迫
「帯域幅」とは、ネットワークが一度に転送できるデータ量のことです。帯域幅が大きいほど同時に処理できるデータ量が増え、通信速度も速くなります。
しかし突発的にネットワークの利用が増えると、帯域幅が圧迫され、通信の速度遅延が生じることもあります。たとえば大規模なオンライン会議やソフトウェアの一斉ダウンロードなどが行われると、帯域幅がひっ迫し、輻輳を発生させることもあるでしょう。

③ネットワーク機器の処理能力を超える通信量
ルーターやスイッチなどのネットワーク機器には、それぞれ処理できる通信量の上限があります。通信量が機器の処理能力を超えると、データの処理が追いつかなくなり、通信速度の低下や接続不良が発生することもあるでしょう。
特に企業のネットワーク環境で、古いルーターや低スペックのスイッチを使用していると、輻輳の原因になることもあります。このような場合は、ネットワーク機器のバージョンを最新にしたり、よりハイスペックな機器に切り替えたりすることが必要になるでしょう。
輻輳の具体例やビジネスへの影響
輻輳が起こる具体的なシチュエーションやビジネスへの影響について解説します。
①カフェやコワーキングスペースなどの公衆Wi-Fiカフェやコワーキングスペースの公衆Wi-Fiは、多くの利用者が同時に接続するため、通信が混雑しやすい環境です。特に動画視聴やテレビ会議などの大容量データ通信が増加しており、これが輻輳の一因になることもあります。
②OSアップデートやクラウドサービス利用の急増
OSのアップデートは大容量のデータを一斉にダウンロードする場合があるため、ネットワークの帯域幅を圧迫し、輻輳を引き起こす原因になります。特に企業の複数のPCが同時にアップデートを行う場合、ネットワーク全体の通信速度が大幅に低下する可能性があります。
また、クラウドサービスの利用拡大も輻輳を引き起こす一因です。クラウドベースのアプリケーションは常時インターネットに接続し、データの送受信を行うため、利用者が増えるほど帯域が圧迫されます。
コロナ禍で出社とリモートのハイブリッドワークが普及したことにより、VPNなどを経由した企業ネットワークへの接続が急増しました。これにより、VPNルーターやセンター拠点のゲートウェイにアクセスが集中し、輻輳が発生しやすくなりました。
特に業務時間帯のピーク時には、VPNの帯域がひっ迫し、クラウドサービスや社内システムのレスポンスが低下することもあります。
ネットワークの輻輳を解決した事例
ネットワークの輻輳を解決したお客様の事例をご紹介します。現在お悩みの担当者様は、ぜひ参考にしてください。
①専有型の10Gbps回線で輻輳を解決株式会社ソフトクリエイト様は、システムインテグレーターとしての長年の実績を活かし、IT基盤のコンサルティングや設計・構築、保守・運用までトータルでサポートしています。しかし、コロナ禍以降のビジネス環境の変化により、状況が一変。テレビ会議とリモートアクセスの増加で社内のネットワーク品質が悪化してしまいました。
そこで、アルテリア・ネットワークスの「UCOM光 ファストギガビットアクセス10Gbps」(1社専有による上下最大10Gbpsの高速・大容量インターネット接続サービス)を導入することにしました。導入後は、新しいネットワークで年始のオンラインイベント配信に成功し、ネットワーク品質が向上しただけでなく、運用改善も実現できたとのことです。今後、Webセミナーなどのリアルタイム配信の可能性も広がり、在宅でも高速接続に大きな期待を寄せていらっしゃいます。

②閉域VPNの導入で輻輳とセキュリティの課題を一挙解決
SBSホールディングス株式会社様は、国内外40社の連結子会社で総合物流事業を展開するSBSグループの持株会社です。グループ各社が利用するイントラ網に接続しづらくなる問題が生じ、通信の速度低下や切断が発生するだけでなく420拠点の業務に支障をきたす事態になりました。また、ランサムウェアによるセキュリティインシデントも発生し、ネットワークのセキュリティ強化を解決する必要にも迫られました。
そこで「VECTANT クローズドIPネットワーク」「VECTANT セキュアクラウドアクセス」を導入し、拠点ごとに最適な回線を構築。クローズドIPネットワーク(閉域VPN)に移行するとともに、負荷が増大する特定のSaaSの通信をオフロードさせることで、輻輳の解消につながりました。現在、アルテリア・ネットワークス提供の閉域VPNは、2023年11月時点で11のグループ会社及び420拠点が利用していますが、速度遅延などの不満の声は上がっていないとのことです。

まとめ
輻輳とは、特定のネットワークやシステムにおいて、大容量データの送受信やトラフィックの過剰集中により、通信速度が低下する現象のことを指します。輻輳が発生すると、データ遅延やパケットロスなどが発生し、通信品質も低下するようになります。
輻輳を解決するためには、回線の増速を行い、帯域幅を広げることが有効です。特に大容量のデータを扱う企業では、2.5Gbpsや5Gbps、10Gbps回線へのアップグレードを検討してみましょう。加えて従来のPPPoE方式からIPoE方式へ切り替えたり、共有型回線から専有型回線に変更したりすることで輻輳を回避することもできます。
さらにネットワーク構成の見直しを行い、ローカルブレイクアウトにより直接インターネットに接続することで、拠点間の負荷を分散させることも可能です。また、クラウド基盤を活用することで、より効率的なネットワーク運用が可能になります。
アルテリア・ネットワークスでは、複数のソリューションやノウハウを組み合わせ、お客様に合った環境をご提案いたします。現在、通信の速度低下や切断が発生するなどのお悩みがある場合、以下のリンクから資料をぜひダウンロードしてください。
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